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動物看護師が教える、猫の手作りごはん入門 ― おすすめの材料と作り方

動物看護師が教える、猫の手作りごはん入門 ― おすすめの材料と作り方

今回は「猫の手作りごはん」。ホテルでお預かりしているお客様からも「愛猫に手作りのごはんをあげてみたいけれど、何を入れていいのか分からない」というご相談をよくいただきます。

結論からお伝えすると、手作りごはんは正しく作れば素晴らしいものですが、いきなり主食を全部置き換えるのはおすすめしません。 その理由と、安全に始めるための材料選び・作り方を、動物看護師の視点で順番にご説明します。


1. 始める前に ― 猫は「完全肉食動物」です

犬と猫の手作りごはんは、まったくの別物です。猫は完全肉食動物で、体のつくりが「肉から栄養を取ること」に特化しています。そのため、犬や人では問題にならない栄養素が、猫では致命的な不足につながることがあります。

代表的なのが次の4つです。

栄養素 猫にとっての意味 不足すると
タウリン 体内でほとんど作れない 拡張型心筋症、網膜の変性(失明)
ビタミンA β-カロテンからレチノールに変換できない 皮膚・粘膜・目のトラブル
アラキドン酸 植物油から合成できない 皮膚炎、繁殖・腎機能への影響
カルシウム 肉だけだとリンに極端に偏る 骨がもろくなる(特に子猫)

とくにカルシウムとリンのバランスは、手作りごはんでいちばん崩れやすいポイントです。お肉だけを煮て与え続けると、リンに大きく偏ったごはんになってしまいます。

だからこそ「トッピングから」

市販のフードのパッケージに「総合栄養食」と書かれているものは、これだけと水で健康を維持できるよう栄養設計されたものです。手作りごはんでこの水準を毎日再現するのは、正直に言ってかなりのハードルがあります。

そこでおすすめしているのが、いつものフードにトッピングする方法です。

  • 1日の食事量の 10〜20%程度 を手作りに置き換える
  • 残りは今まで通りの総合栄養食

これなら栄養バランスの土台は総合栄養食が支えてくれるので、失敗のリスクがぐっと下がります。水分も一緒に摂れて、食いつきも良くなる。いいとこ取りです。

100%手作りに移行したい場合は、タウリン・カルシウム・ビタミン類のサプリメントが前提になります。必ず、できれば栄養学に詳しい獣医師に設計を見てもらってください。


2. おすすめの材料

たんぱく質(全体の70〜80%)

手作りごはんの主役です。基本は「加熱した、味付けなしの肉」。

  • 鶏むね肉・ささみ … 低脂肪で消化がよく、初めての一皿に最適。まずはここから
  • 鶏もも肉 … 脂質とアラキドン酸が摂れる。活動量の多い子や痩せ気味の子に
  • 鶏ハツ(心臓) … タウリンの宝庫。少量入れるだけで栄養価が上がる、隠れた優等生
  • 砂肝 … 低脂肪・高たんぱく。よく刻んで
  • 豚赤身・牛赤身 … 変化をつけたいときに。脂身は取り除く
  • 白身魚(たら、かれい、たい) … 必ず加熱して、骨は完全に取り除く
  • まぐろ・かつお … 血合いの部分にタウリンが多い。ただし与えすぎ注意(後述)
  • … 必ず加熱を。生の白身は避けてください(後述)

鶏レバーもビタミンA・鉄・タウリンが豊富ですが、猫はビタミンAを溜め込む性質があるため、与えすぎると骨の変形などの過剰症を起こします。全体量の5%以内、週1〜2回までを目安にしてください。

野菜(全体の10〜20%)

猫に野菜は必須ではありませんが、便通の助けになります。必ず加熱して、細かく刻むかペースト状に。

  • かぼちゃ … 甘みがあって食いつきがいい
  • にんじん … しっかり加熱して細かく
  • ブロッコリー … 穂先の部分を柔らかく茹でて
  • 小松菜 … 少量。ほうれん草はシュウ酸が多いので、尿石症の心配がある子は避ける
  • さつまいも … 少量。カロリーが高いので入れすぎない

猫は野菜のセルロースを分解できないので、大きいまま入れてもそのまま出てきます。フードプロセッサーがあると圧倒的に楽です。

少量のプラスに

  • 無糖プレーンヨーグルト、カッテージチーズ … ごく少量
  • 卵殻パウダー(カルシウム源) … 100%手作りにする場合は必須
  • かつおぶし(無塩のもの) … 食いつきが落ちたときの切り札

3. 使ってはいけない材料

ここは絶対に押さえてください。「少しなら大丈夫」ではないものが並びます。

ねぎ類(玉ねぎ、長ねぎ、にら、にんにく、らっきょう) 猫の赤血球を壊し、溶血性貧血を起こします。**加熱しても無毒化しません。**煮汁に成分が溶け出したスープもNG。人間用の煮物やスープのおすそ分けが最も危険なパターンです。

生の魚介類(いか、たこ、貝類、生魚) チアミナーゼという酵素がビタミンB1を壊し、ふらつきや発作といった神経症状につながります。加熱すればこの酵素は失活します。

あわび・さざえの肝 猫では光線過敏症を起こし、耳の先が炎症を起こして欠けることがあります。春から初夏にかけて特にリスクが高くなります。

生の卵白 アビジンがビオチンの吸収を妨げます。卵は必ず火を通してください。黄身だけなら生でも問題ありませんが、加熱がいちばん安全です。

加熱した骨 鶏骨は加熱すると縦に鋭く裂け、消化管を傷つけます。魚の骨も同様です。

青魚の与えすぎ あじ・さば・いわしなどの不飽和脂肪酸を継続的に多く与えると、ビタミンE不足から黄色脂肪症(イエローファット)という痛みを伴う病気になります。まぐろ・かつおも同じ理由で「主食」にはしないでください。

牛乳 多くの猫は乳糖を分解できず、下痢をします。与えるなら猫用ミルクを。

そのほか … チョコレート、カフェイン、ぶどう・レーズン、アルコール、キシリトール、そしてすべての味付け(塩、しょうゆ、だしの素、コンソメ)。市販のだしパックは塩分を含むものが多いので使わないでください。


4. 基本の作り方

難しいことはしません。「茹でる・刻む・煮汁ごと」 の3つだけ覚えてください。

手順

  1. お肉を茹でる(または蒸す) 水は多めに。皮と脂身は取り除いておきます。
  2. 野菜も一緒に、柔らかくなるまで加熱 にんじんなど硬いものは先に入れます。
  3. 煮汁は絶対に捨てない ここが最大のポイントです。タウリンは水に溶け出す性質があるので、煮汁を捨てると主役の栄養が流れていってしまいます。スープごと器へ
  4. 細かく刻む、またはフードプロセッサーにかける 猫はほとんど噛まずに丸呑みします。5mm角以下、心配なら細かいフレーク状に。
  5. 人肌(35〜38℃くらい)に冷ましてから 猫は体温に近い温度を好みます。香りが立って食いつきも良くなります。冷蔵庫から出したての冷たいごはんは、消化にも負担です。

配合の目安

肉・魚 …… 7〜8
野菜  …… 1〜2
水分  …… 全体がひたひたになる程度(多めでOK)

100%手作りにする場合のみ、肉100gに対して卵殻パウダー0.5〜1g程度のカルシウムを足します。ただしこの量は肉の種類でも変わるので、市販のサプリメントであれば必ず製品の表示量に従い、不安があれば獣医師にご相談ください。


5. 実際のレシピ

鶏むね肉とかぼちゃのスープごはん(トッピング用・2〜3回分)

材料

  • 鶏むね肉 … 80g(皮なし)
  • 鶏ハツ … 10g
  • かぼちゃ … 20g
  • ブロッコリーの穂先 … 10g
  • 水 … 200ml

作り方

  1. 鶏むね肉とハツを1〜2cm角に切る
  2. 鍋に水と肉、角切りにしたかぼちゃを入れて中火にかける
  3. 沸騰したら弱火にして10分。途中でブロッコリーを加える
  4. 火を止めて粗熱をとり、具材を煮汁ごとフードプロセッサーへ
  5. 好みの細かさにして、人肌に冷ましたら完成

白身魚とにんじんの水分たっぷりごはん(夏場・水を飲まない子に)

材料

  • たら(生・切り身) … 80g
  • にんじん … 15g
  • 卵 … 1/4個分
  • 水 … 250ml

作り方

  1. たらは骨を徹底的に取り除く。指でなぞって確認してください
  2. すりおろしたにんじんと一緒に、水から茹でる
  3. 火が通ったら溶き卵を回し入れ、しっかり火を通す
  4. ほぐして、煮汁ごと器へ

夏場や、冬に水を飲まなくなる子には、この「スープ多め」の一皿が効きます。猫はもともと砂漠の動物で、自分から積極的に水を飲む習慣がありません。**食事から水分を摂れるのは、手作りごはんの最大のメリットのひとつです。**泌尿器のトラブルが気になる子には特におすすめできます。


6. 保存と与え方

  • 冷蔵 … 2日以内に使い切る
  • 冷凍 … 製氷皿やシリコンカップで1回分ずつ小分けに。2〜3週間が目安
  • 解凍 … 冷蔵庫でゆっくり、または湯せんで。電子レンジは加熱ムラができて、熱い部分で口の中を火傷することがあります。使うなら必ず混ぜて温度を確認してください
  • 食べ残し … 30分ほどで下げてください。手作りごはんは水分が多く、傷むのが早いです

切り替えは、ゆっくり

急に新しいものを出すと、警戒して食べない子がほとんどです。猫は「食べ慣れないものは危険」と判断する動物なので、これは正常な反応です。

  1. まずはいつものフードの上に、小さじ1杯だけのせる
  2. 数日かけて様子を見る。便がゆるくならないか確認
  3. 問題なければ少しずつ量を増やす
  4. 10日〜2週間かけて、目標の割合まで

途中で下痢や嘔吐が出たら、いったん元に戻して仕切り直してください。


7. こんな場合は、必ず獣医師にご相談を

手作りごはんが向かない、あるいは専門的な設計が必要なケースがあります。

  • 腎臓病 … リン・たんぱく質の制限が必要。自己流の手作りは病状を悪化させます
  • 尿石症(ストルバイト、シュウ酸カルシウム) … 尿pHとミネラルの管理が必要です
  • 甲状腺機能亢進症、心臓病、糖尿病
  • 食物アレルギー … 除去食試験中は、指示された食材以外を絶対に入れないでください
  • 子猫、妊娠・授乳中の母猫 … 必要な栄養量が成猫とまったく違います。特にカルシウム不足の影響が深刻です
  • 高齢猫 … 食欲や消化能力に合わせた調整が必要です

療法食を処方されている子の場合、良かれと思ってのトッピングが治療を台無しにしてしまうことがあります。「うちの子はこういうものを足していいですか」と、かかりつけの先生に一言確認するだけで防げます。


おわりに

手作りごはんの本当の価値は、栄養バランスそのものよりも、水分が摂れることと、飼い主さんが愛猫の食べる様子を毎日じっくり観察できることにあると思っています。

「今日はいつもより食べるのが遅い」「片側の歯でしか噛んでいない」「スープだけ飲んで具を残した」。 こうした小さな変化は、体調のサインであることが少なくありません。ごはんを作って、目の前で食べてもらう時間は、いちばん身近な健康チェックの機会でもあります。

無理なく、まずは小さじ1杯から。楽しんでみてください。


まりんハウスでは、動物看護師とキャットグルーマーが在籍し、猫だけをお預かりするホテルとトリミングサロンを運営しています。 ご宿泊中のお食事は、普段召し上がっているものをお持ちいただければ、そのままのペースでお出しします。手作りごはんを続けている子も、ご相談ください。

食事やお手入れのことで気になることがあれば、ご来店の際にお気軽にお声がけくださいね。

※この記事は一般的な情報提供を目的としたものです。持病のある猫ちゃんや、食事内容に不安がある場合は、かかりつけの獣医師にご相談ください。

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